2008年9月13日土曜日

永久保存にしたい


舅どのは姑さんの陰に隠れている。

大正製薬は昔、道の水たまりを飛び越せなくなったね、という中年男性のための「だから栄養ドリンク」とかいうCMを流した。中年男性とは大正生まれで兵隊に行って働き尽くめという筋立て。舅どのがそうだ。中国戦線、ベトナムにひっぱられていたそうだ。すべて姑さん経由でおもしろおかしく脚色されて聞いた話。このひとは「馬耳東風」という趣旨のことを姑さんは言う。どこでも眠れるそうだ。右を向いていろと言われればいつまでも向いていられるような耐えることが平気だという。夜間行軍中どこかで小休止したときつい寝込んでしまい、起きたら置いていかれたらしく蒼くなって追いついたという話は何度も聞いた。船が沈められたときカナヅチで飛び込めず却ってそれが幸いし九死に一生を得た話も。

「三十六色の色エンピツと名画の塗り絵」セットを敬老の日にということで送るのを妻から請け負った。何も考えず手帳に書いてあるままに舅殿を宛先に書いた。妻は母親に贈ったつもりだったらしい。ちょうど外出をしていて留守電が入っていた。姑さんからのお礼の内容だったが、傑作なのは、「録音だからしゃべらいん」という小さく促す声があって、舅どのの声が入っていたこと。録音とはいえ、電話に出て‘面と向かって’話すということは滅多にない人の声が入っていた。これは永久保存版もの。

姑さんは大柄でほがらか、ふとっぱら。その昔、舅どのはよく番頭さんですかと問われたらしい。舅どのは家業を継いだ二代目。実直、生真面目そのものの人生。それが姑様にはちとつまらないらしい女心。算術は抜群。それにしても大人しい東北人。

数年前に戦友会でも健常なのは舅どのだけになってしまい解散したらしい。来年は卒寿。元気で長生きしてほしい。住みやすい世の中にしなければ。

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