2008年9月4日木曜日

家内


 遠い昔のこと。傘には「蛇の目傘」と「こうもり傘」の区別があった。こうもり傘は高いが丈夫でランクが上だった。その名の通り“ジャバラバラッ”と鈍い音を立てて開くのが蛇の目傘で、油が酸化した独特の匂いがした。この匂いが「油の酸化臭」として私の記憶に刷り込まれた。安かったが、やがてすたれていった。時代劇の傘張り浪人を、昭和30年代の内職仕事を想起する。今は観光地などでお土産のように売られている。我家にも反対を押し切って買ったものがひっそりとある。

 小学生のとき今のような「置き傘」というものはなかった。下校時、雨が降っていれば友人の母親達は学校に迎えにきた。働いているうちの母親にはそれを望むべくもなかったので、町の家の軒先を伝いながら帰った。無駄な努力だったので途中から「ままよ」と濡れて帰った。年末になれば友人の家庭では正月の準備に余念がなかった。勤め人の家の母親はたいがい専業主婦だった。

 この前は盆休みで、今度は遅れの夏休みということで妻殿が長く家にいる。いそいそと台所のことをしてくれて食卓の品数の手が込んでいる。家もきれいだ。

 ホントは「妻は家庭で、亭主は外で仕事」を望んでいたのかもしれない。「家内」にしたかったのかもしれない。自分の気持ちが自分でわからない。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

うちのマダムは、「前さん」なので、暇でも家事はしましぇん(号泣)。最近はヒゲが生えて来ましたぁ!もうマダムに太刀打ちできるのはホッキョクグマだけです。