2009年7月23日木曜日

母のふくらはぎ


小さいころ父のふくらはぎを揉んだことがあった。

父は帰宅するなり畳の上に倒れこみ、仰向けになり腕を額にあて、疲れ果てたように息を整えた。そうして、私の方をひょいと向き足を揉んでくれとたのんだ。小さな手で父のふくらはぎを揉んだ。毛でごわごわするふくらはぎは柔らかかった。父は目を閉じて気持ちよさそうだった。

私が幼い時に父は胃の全摘出手術を受けて、職場復帰はしたが、それ以来体力は著しく衰えていた。しかも勤め人としては高齢の域に達していた。地方にしては長距離通勤をしていたので、ときどきほうほうの体で帰宅し、すぐに横になることが多かった。

母の場合は仕事柄、冬場のひび赤切れがひどかった。母は年中、肩こり腰の痛みを訴え、お灸やサロンパス、アリナミン錠のいずれかを欠かすことはなかった。だから、母の肩たたきをしたり肩を揉んだりしたことはあった。

今、こうして母の足先やふくらはぎをさすったり、揉んだりしている。痛くはないかと聞くと、うつろな表情のなかでも気持ちいいと反応する。

姪っ子から「おばあちゃんはだんだん天国に近づいているのですね」と返信のメールが届く。

1 件のコメント:

ハマタヌ さんのコメント...

いい記事だなぁ。好きな記事だなぁ。こんな文章を書けない私って、やはり母親に対する愛情が薄かったのではないかとすら疑う。