2009年7月10日金曜日

蛸と夏


 私たちが食べているたこはアフリカ産など輸入ものが主流になって久しいのです。昔は湧いてくるほど獲れたそうですがさすがに枯渇しつつあります。いまさらながら国産のたこの活用ができないものかと考えていたところに、ある紹介があって出遭ったのが石川県の輪島のたこでした。「真たこ」と呼ぶ種類です。この種類は暖かいところのたこなので、ここはわりと北のほうの産地になります。北にいけば水たこと言う種類が主流になります。北海道の大きなたこがそうです。あわびやウニを潜って獲る漁業が盛んなこの地方ではたこは駆除の対象になっていて実際に補助金でそれをやっているのですが、これは一般の商業流通にはのりません。小型底引き網の混獲あるいは蛸壺漁による漁獲物です。茨城にあるたこ専門の加工業者さんの評価では「味わいのあるたこ」とのことでした。

 能登半島の日本海側の輪島は観光地ではありますが、僻地のひとつです。海を越えて北から吹く風は激しいものがあるようで、海の近くに構える住居はそれに備えるつくりになっています。厳しい環境のなかでも営々と築きあげられてきた棚田が日本海に向かってある姿はそれ自身もなかなか美しいものです。そして、その海は古くからの慣習で漁場が守られてきました。そうはいっても、潤沢な資源ではありません。

 そこでここの「たこ」を大量販売するための刺身用や酢だこの加工ではなくてもっと他に使える方法はないかと考えました。能登半島を進み峠の喫茶店で昼食をとったときに、掲げてあったのが「たこめし」の幟でした。聞けばママさん、朝は海女さんをやっているとのこと。海女さんとは誰もがやれるものではなく、代々権利として継承されてきたものです。また、夕食をとった居酒屋さんでも「たこめし」メニュウがありました。たこ飯といえば瀬戸内海の風物詩のような牧歌的なイメージと名物の観があったのですが、輪島のものもユニークでなかなかのものでした。

 多量に漁獲する沖合漁業や輸入物でなく、我々流通からすれば細々とやっているように見える沿岸の資源をなんとか加工して活用できないものかと考えました。実は輪島漁協(今は大型合併が促進されて石川県漁協(JF石川)の支部になりましたが)は、藩政時代から引き継ぐ漁場の管理を歴史的権利関係があって厳しく守ってきましたから多量でなければ価値のある漁獲物が多いのです。ここは後継者がいて若いひとが働く全国でも珍しい漁協のひとつと見受けられました。ただ、たこそのものはあまり儲からないということで獲る人も少ないようでしたが。夏はたこの産卵の時期です。

 もう数年も前の昔の話になりました。

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