2009年4月21日火曜日

モノ豊かな生活


 20数年前だった。箱根のホテルに詰めこまれペガサス理論を叩き込まれた。そのときのチェーンストア理論の完成イメージが私には今のユニクロの姿だと想像できた。フィットするデザインやサイズをいくつも揃ったカラーの中から選ぶことができリーズナブルな価格で買える。豊富な品揃え、心地よい、美しい消費という。
 主宰者の渥美氏が示唆した供給源(ソース)の可能性は、当時香港だった。日本には無いさまざまな染料や繊維、プラスチック加工、あらゆる分業された家内工業が可能であると。スペシャリストとワーカーの仕組み、アウトソーシングそこにおけるサプライヤーとの結びつきあるいは配置の仕組み。
 今、ワーカーは流動可能で不安定な無権利労働者へとなりつつある。「モノが安くなる仕組み」にはさらに都合のよい労働力が生じてきている。アウトソーシングは中国、東南アジア、インドに根を張った。児童労働すらありうる。「グローバル化」というアメリカ化。スペシャリストや時流にのった経営者には巨万の富が集中する。そして人々はモノが豊かな選択肢の中に暮らしていると見間違う。
 軍隊には靴が必要だ。かつて日本の靴メーカーも国策に沿った会社だった。庶民の履物が部落産業に負っていたのとは対照的に。靴の製造はそれなりに複雑な工程を経る。部品と労働の集約型商品でかつ熟練が必要だった。熟練と言えば、大昔、私は工場生産を直に見たことがあるが、どの工程もそれは芸術のような見事な捌き方で驚嘆したことを覚えている。必需品で消耗品ではあるが、サイズ、色、型、流行があって製造にも販売にもコストがかかった。たくさんの人手がなければ経営は儲からなかったので一番にアウトソーシングした。久留米に2大メーカーはあり、まずは没落した周辺の炭鉱地帯に下請けを移した。そして韓国に移した。それからはインドネシア、そして開放政策のとられた中国へ。安い人件費を求めて。技術、生産の海外移転、国内空洞化の走りだったように感じている。そして当の国内の製造ブランドは没落し、今はスポーツ用品ブランドが靴といえば有名ブランドになって世界を席巻している。
 チェーンストアの仕組みづくり・スキルがあればモノづくりメーカーではなくても、確立したブランドで生産と販売を支配できる。消費者はTPOに合わせて心地よく美しく消費する。ただし物言わぬ低賃金労働(ワーカー)が無ければ成り立たぬ。
 衣料品のユニクロは欧米進出を経て、ついに生産国である中国で本格展開する。低賃金で作られる産物が日米と同じように格差社会をひた走る中国その地で消費される。
 安くて豊かなモノに囲まれそして多くの人々が幸せではない。

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