2008年8月25日月曜日

OPEN FORUM参加録 その1

 ATJ社は日本の民衆交易(≒フェアトレード)の実践者としては第一人者で有名な企業である。わずか19人のスタッフで成り立っているらしい。砂糖、バナナ、エビ、コーヒー、塩、オリーブオイルの事業を積み上げている。

 そのATJ社が、03年にインドネシアのエビで有名な産地に現地法人(ATINA社)を、05年には現地工場を立ち上げた。

 今年1月に参加しないかという打診を真に受けて、その後とくに連絡もとり合わなかったが、日程に合わせて夏季休暇をとっていた。相手の皆さんは仕事で私は貴重な休暇。少なからぬ自費負担と休養にはならないとわかっていて、行くかどうか迷いもあった。ままよと、好き好んで行くことにしたのは、やはりかつて間接的にはかかわった分野だったこと、「エビから見える世界」が今はどうなっているのか、我社なら避ける「恐いもの知らず」にも見える事業をこの目でみたいと思ったからだ。この機会を逃せばもう無かろうと思った。

 インドネシア側の生産者、工場の皆さんと、日本側の個人対応型をめざすという個配システムのみなさん(会員理事と職員、事務局、有識者)との、「国際産直」の二者認証の「OPEN FORUM」開催への参加が目的であった。ATJ・ATINA社にとっても初めてで、主催する個配システム側もエビで開催するのは初めてだったという。ATJ社の部長さんは(このエビを扱って)18年間の夢、生産者と消費者の交流がかなったと挨拶された。

 自己紹介では「この地(シドアルジョという産地)にATJ・ATINA社が生産工場をつくられたことに驚くとともに強い関心をもって参加する機会を得た」と正直に述べた。

 農業と畜産は人類の歴史のなかで自然に働きかけ長い年月をかけてつくりあげてきたもの。水産は逆に漁労漁獲が中心で何かを育て収穫するものではない。つまり「養殖」の歴史は非常に浅く、否定的成果に苦しめられることになる。といいながら、実は養殖というのは人類史的に言えば古くから、草魚の類、なまずの類の淡水魚で脈々と営まれてきている。それは東南アジアや中国、先住民のアメリカ大陸にあって、その生産量もばかにならない。世界を放浪したことのある人なら「トイレで池にチャポン」「池には魚」のような経験をされたことがあるだろう。金儲けが目的の現代養殖の事業と違って、伝統養殖は食べ物をつくる営みであり循環型。ベトナムのシーフードレストランのトイレに入ってひょっとしたらと思ったことのある「食べて出しているつながり」。トイレと豚の関係と同じ。

 元は塩田の開発が始まりだったらしい。海水を干満のチカラで川の下流やマングローブ林の汽水域からとりいれると魚やエビの稚魚も入り込み、それらが勝手に大きくなり収穫できることに気付いたらしい。迫害されて海辺へ追いやられ「食うために」みつけだした先祖たちの知恵ともいう。近年までは自分らの食糧のために魚(インドネシア語で「バンデン」と呼ばれる大衆魚、白身魚でおいしい)を育てていてエビは副産物だった。これが外貨を稼げるとあって逆転させ、エビを育てて出荷することにした。これが「伝統的粗放養殖」と呼ばれる、ほとんど農業に近い作業の方法。それがインドネシア・シドアルジョというような所のエビのつくりかた。

 エビはついこの間の40年ほど前までは天然の漁獲に頼っていた。1960年代までは湧くほど各産地にエビがいたはずである。これは他のどの魚種にも言える。種類こそ違え、世界のどこの海にもあった。例えば西アフリカ沖のタコがそうである。とくに熱帯、亜熱帯の地域に。しかしながら段々に獲りつくした。 このことの問題!

 一方、ブラックタイガーという南方系の種類について養殖が実用化されたのが1970年代の台湾に始まる。一挙に増産が始まる。この方式が東南アジアと中国各地に広まる。徐々に技術が高まる。孵化から稚魚、そして人工飼料、薬品、反収をあげるための飼育の仕方。そのために効率を極限にまで上げた高密度「集約型養殖」と呼ばれる。社会的分業とほとんど工業的手法に近い。そして開発型であったので東南アジアの汽水域のあるマングローブの林を潰した。 このことの問題。

 ところが80年代後半に台湾は潰滅する。地下水を汲み上げ利用していたために村全体も文字通り地盤沈下する。エビ御殿は傾いた。90年代初めに中国の大正エビが瞬く間に全滅する。それに続くタイの産地(バンコク周辺)の潰滅。エビがつくれなくなったどころか、大切な土地が池にも田んぼにも戻らなくなって、見渡す限り干上がった荒涼とした光景が広がった。これらを偶然、私は見聞することになった。バイヤーは舌打ちをしながら別の産地をみつければよかった。或いは開発させればよかった。

 いずれも、病気が発生したため。「自然は復讐する」を地で行く現象。

 バイヤーは、もっと別の場所に、たとえばスマトラ島にスラウェシ島に、数多(あまた)あるどこかの島に、首尾一貫した産地開発を促しさえすればよかった。より大型開発となって現在に至っている。したがってインドネシアが有力産地に「成長」してきた。数年前から養殖エビの主流がブラックタイガーからバナメイという種類に替わった。病気に強く早く育つため。ブラックタイガーは入手しづらくなっている。
 これはブラックタイガーに比べてあまりおいしいエビではない。

 今回21年ぶりにインドネシア・シドアルジョを訪問。伝統的な池と生産方法が健在であったことをうれしく思った。エビの収穫を見せてもらった。生産者のみなさんの働きと自然によく向き合った作用によってエビを育み、それを収穫する。また、その次もそのことができる。理にかなった育成方法。だからエビがおいしい。私は「エビにチカラがある」と表現する。この地にあった育て方が、将来も生き残るだろうと考えられる。

 この方法は餌を与えないやりかた。「ガンガン」という水草を干して発酵させそれを池に戻して、その栄養でプランクトンが発生しそれがエビの餌となる。「バンデン」という魚と共生ができ、よく水面上に飛び跳ねる動きの活発な魚なのでそのことによりエビに酸素を供給してくれる。密飼いをせずにエビの習性に合わせた自然に近い環境で育てる。
 そして、池放流後に化学合成薬品を投与しないという条件のエビを、ATJのグループは商品化している。

 また今回の「OPEN FORUM」の目的のひとつでもあったATINA社の工場と管理帳票の一部を監査させていただいた。私は当事者ではない立場(一組合員ではあるが)。 ~つづく~

5 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

なるほど!エビから見える世界!ですね。
先日も「エビづくし!スペシャルランチ」を食べました。おいしいものを安く食べた~いとか、太りたくな~いとか、私のようなワガママ消費者が世界を変えていってるんだ・・

匿名 さんのコメント...

とても面白く読ませて頂きました。エビの本は岩波ブックレット程度の知識しかなかったのですが、やはり専門家の見識と知見ですね。厚みが違う。
こんな知見を持つ人が休暇で行くなんてもったいない。実にもったいない。
餌をやらない粗放飼育はいいですね。有機農業と通じ合うものがあります。

匿名 さんのコメント...

こんにちは♪
ほんとそうですよね。
効率性だけ、目先の利益だけを考えると、結局は続かないと言うか、破滅の道を歩むことになるのに・・・
どうしてみんな気付かないんでしょう?

余情 半 さんのコメント...

ニーニャ様
 資本主義社会!「商品のなかにすべての謎がある」といいます。

ブナガヤ様
 その1があるといえば「その2」があるわけですが、なかなか進みません。大記述の次の日も大記述で、第7回という連載は驚異的です、すべて足元にもおよびません。欠かさず、のけぞり、斜め読み、二度読みさせていただいています。

ゆっきんママ様
 とはいえ、えびの病気、食の後退、からこの産地にも「危機」も忍び寄っています。そのことを「その2」に描きたいと思っています。

匿名 さんのコメント...

こんばんは♪
いつも楽しいコメントをありがとうございます♪
そうなんですか~~~
その2を楽しみにしています。
が!私も以前の自分のブログを読み返してみると、今度ブログにUPします。と約束していて反故にしていることも何回かあり、冷や汗をかいたりしています。
なので、あまりプレッシャーを感じませんよ~に!
気を長~~~~~~くして待っています♪