2008年8月14日木曜日

自転車泥棒


 盗んだ方が悪いに決まっている。
が、ついつい妻殿を責めてしまう。何でチェーンロックしていなかったの。「その日に限って」。あまい~い。涙ぐむ。かさぶたを剥がす性格。

 形ばかりの式を挙げ、遠くから来てくれた友人たちを自宅3LDKアパートに泊めた。一晩どんちゃん騒ぎをして、送り出してから、新婚旅行に出かけた。どこに行くとも決めていなかったから、東へ、日本海の方へ出かけた。適当に宿をみつけ、レンタサイクルを借りて観光をしようとして、わかった。この新妻は自転車にうまく乗れなかった。観光よりも自転車の稽古になって半ベソをかかれた。岬に夕日が沈むのを見に行って、とっくみあいをしてじゃれあった。

 念願の自転車を買ってもらえた、3、4万はしたと思う。
誰誰ちゃんも、ほらあの人も買ってもらえたと、母の袖にしがみつき訴え、ときには脅迫した。買ってもらうまでは、たいがいのことは我慢をし、媚びへつらった。5段変速を駆使し登り坂もさっそうとこぎ行く自分の姿をひたすら夢想していた。実際、買う段になって、ドロップハンドルも高いサドルも小柄な私には向かなかった。
 せっせと油を注し、車体を磨いて、それは、それは大事にした。
あるとき自宅から忽然と消えた。南北に長い町じゅうを歩いて探しまわった。出てこなかった。
 2~3年後に警察から連絡があって遠い田舎町に引き取りに行った。ご近所も盗まれていたらしく車に同乗させていただいた。愛車に違いなかったが、変わり様に愕然とした。

 長男に最初のころ買った自転車も盗まれた。鍵をかけていなかった。あきらめが早く見えたので、「町じゅうを探せ」と叱りとばした。でも、もう通じなかった。

 その長男が小学生のころ、「ちゃりんこ」「ママちゃり」とか呼ぶので違和感を覚えた。自転車を馬鹿にしているようで。中国人への蔑称に似た語感だからかな。それもあるが、なにか軽んじているようで。今では全国区の呼び名、「日本語」になった。

 家族6人で一体何台盗まれただろうか。駐輪場や街中(まちなか)で盗まれるのならまだしも、私のものにいたっては自宅の車庫からも盗まれた。乗り捨てられ、放置自転車として隣の町内の路上から後日見つかった。電話番号を大書していたから連絡をいただいた。

 既に『自転車泥棒』の時代ではなくなった。盗まれた方はもちろん、盗んだ方にも「事情」があった。あったからその哀切に共感があって名画と呼ばれた。

 「気軽」に買い換えるようになった。いつのまにか、盗まれても執着しないのを感じる。盗んだ方もたいがい乗り捨てているようだ。北の方面の異国にでももっていくのならまだいい。ただその場の拝借のように、罪悪感はないだろう。それらがむしょうに腹が立つ。

 だから、盗ませない。自衛を講じる。
鍵、チェーンロック、車体に名前、電話番号、住所を大書。これが我家の家訓かな。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

占有離脱物横領といいます。でも鍵を壊されて盗まれたんだから窃盗かな?
先日その罪状で捕まったおじいさんがいました。裁判官の粋な計らいで判決の日に出られることになったのだけど、住所がない人でした。その日からどこに住めばいいのか、やりきれなさが残りました。