2011年2月20日日曜日

何の人生

 孝道さんは目鼻立ちの濃い人だ。
 明るくなった。目覚めて布団の中から窓の方を振り向いて一瞬ビクッとした。目と目が合ってしまったからだ。睫のくるっとした大きな瞳でこちらを見つめていたらしい。それだけでお互いに朝から大笑いだ。

 気をつけなさいよ。降った雪はいいけれど中の雪は凍っていて滑るから。

 南国の種子島にさえも降雪があった大晦日、関東以外の全国各地に大雪が降った。それで、盛岡市郊外で高原の藪川外川地区にも従来にはない重い雪が降ったと上野(うわの)さんは教えてくれた。ここは、本来豪雪地帯ではないので、寒さには強いが雪の重みには耐えられないという白樺のような木があちこちで折れ曲がり倒れていたのは異様な光景だった。

 歩きながらはたと思った。早朝の散歩に出たのはよいが、一面真っ白だ、帰りの道に迷ったらどうしようと。昨日の朝、Yさんを見送ったバス停が見えてきた。たいして歩いていないのだけれども引き返す。そうしたら、自分の足跡が雪道についている。万一迷ったらこの跡を辿って帰ればいいと。それにしても足跡はガニマタだ。

 先人の努力の末、とうの昔に電気も通じ、快適な道路も今では通っている。ここは、その昔、米はおろか作物もできかねる開拓地の寒村であったところだ。

 知れば知るほど伊藤勇雄さん(1898~1975年)はすごい人だったのだねと孝道さんは心から言う。まだ3度目の訪問だったけれども、なんだ「開拓の碑」を見たことがなかったのかと帰る日に案内してもらった。雪の積もった旧開拓村の中心部というところにあった。「夢無くして 何の人生ぞ」と伊藤勇雄の遺した言葉が記してあった。

 53歳で藪川へ入植した伊藤勇雄はさらに69歳で南米に移住する。弟登喜男に贈った色紙には、「君の夢が大きければ大きい程それは君の偉大さを示す」ともある。

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