2010年7月21日水曜日

うつろい


 道は峠を越して行く。以前は人とモノはこの街道を通っていった。その峠にある茶屋では清水で点(た)てた茶を出し、品数は少ないが行き交う人に一服の清涼を与えた。それで繁盛したのはついこの間までのこと。いつしか山を削ってりっぱなバイパスが通る。バイパス道路には急速展開を始めた大型繁盛店ができる。顧客のニーズにあって来客ひっきりなしだ。一方、峠の茶屋はもはや閑散としている。「旅人は通らなんだ、客は無かったのう。」もうすぐ孫が生まれる初老の夫婦は肩甲骨を伸ばして、耳を澄まし遠くを見やる。昔と変わらず鳥が鳴き、見上げる雲がゆったりと流れる。「えろう繁盛しておるように見えましたが、かあさん、いろいろなことが起きておるようじゃて。」「そげですか」「まあ、一休みしてまた立ちあがることじゃろうて」「そげですねぇ、頑張ってもらわにゃ」「そう、馬力が違うけんのう、ただ、からだと脳みそ壊さにゃいいがのう」「そいですねぇ。ところで、とうさん、明日はわたし、発表会前の特訓ですけん、街にいってきます、ひとりでご飯食べといてつかあさい」「そげですか・・・」

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