2008年7月15日火曜日

お友達Uさん


こんなに山積みされているとは思わなかった。ターミナル駅の近くの大型のこの本屋さんに連れてきてくれたUさんは中味を見もせずに、上から2冊目のものをとって、おまけに関連本も一冊とってあっという間にレジに行って清算した。よく見たら別の入り口にも山積みしてあった。「そんなぁ、いちおう、ちょっと目を通してから買うべきでは・・・」とかなんとか申し上げたのだが。

声が大きく顔が赤かったので入ったときから知ってはいたが、10年前に偶然、異動で席が隣り合ってから親しくなった。5歳年上の団塊世代。以来、本音が話せ、「傷をなめあう」ことのできる関係。

某有名私立大学の空手部のキャプテンをはっていた猛者。目つきが鋭い。故郷はお隣。やはり「もっこす」。だから方言は似通う。聞きだせば、彼等がチョンコーと呼ぶ朝鮮高校の人たちをなぐったとか、他の大学の剣道部・柔道部の連中と「肩が触れた」というパターンの出入り、他の大学のスト破り、武勇伝はいくらでもある。あけすけにいえば蛮行。東京の地下鉄はほとんど俺がつくったというアルバイトもしたらしい。

朝鮮人を支配、差別したことや、いわんやこれを襲撃したことの不当をやんわりと非難してさしあげる。生まれた町にも朝鮮の人がいた事情と歴史的背景を私の知る範囲でお話してさしあげる。理科系でご存知なかったとはいえ、もちろんご理解いただける。「いや、いや、なにもしらなかったんだ」命じられれば考えもせず、なんでもしたという典型的な体育会系右翼。そのひととつきあっている不思議を感じる。年寄りになったから同じ話題になりがちで、そのたびに昔の蛮行をつっついてさしあげる。そう云えば殴られた方はよく覚えているらしい、とかひとごとのようにもおっしゃるのだが、そうです。

組合の分会集会に出ないかと誘うが「あげなものは好かん」とおっしゃる。執行部に偽善を感じるらしい。同感だがそれでは変わらんと申し上げる。巷の派遣労働者のたたかい、名ばかり管理職ユニオンの立ち上げを話すと、最近はニュースでよくご存知。社会派的な「評論家」というのはさすが我社的共通点。以前若いひとたちに『蟹工船』が売れているらしいこの本のことも作家のこともご存知ないので話していた。あらためて1933年2月20日に逮捕され虐殺された様子も。それが築地警察署だったことも。わずか29歳の生涯であったこと。彼も築地警察署で取り調べを受けたことがあったらしい。「えっ、右翼には寛大なはずですが・・・」と申し上げた。

金曜日に買われたから月曜日にどのくらいお読みになったか尋ねた。1ページだと。ずっと昔『沈まぬ太陽』を紹介したときには全巻一気に読まれた。それとは趣きが違いますよ、だからトレンドに乗っただけで買っちゃいけませんよとお留めしたのです。いや、読みます、ヨミマス。それよりも余情さんは私をどんな人間だと思っていらっしゃるのですか。あっ、なんの落ち度もない朝鮮高校のひとを追い回したことのある、とんでもないやつだと思っています。いや、いやあのころはなんにも知らなかったの、ひとは右にも左にもいくもんですとかなんとか、しどろもどろ。絆創膏をときどきはがして塩を摺り込んでさしあげることのできる間柄です。私と同じで情念では社会の不合理を感じていらっしゃる方です。

キヨスクでも売っていたらしい。「最も原始的な搾取のもとにさらされている未組織労働者のストライキを取り扱った」作品の内容が80年後の今、似たような状況にさらされている。ワーキングプアと闘う展望をしめすチカラになるということで静かに普及しつつあった。それを気の利いた本屋のある店員さんが共鳴して火をつけたらしい。山村聡さんの脚本・監督で映画(1953年作)もある。

昔買った文庫の字の級数(ポイント)はかなり小さく、若かったので平気でしたが、今はそれが大きくなって随分読みやすくなったものです。

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