2011年1月17日月曜日

白布温泉行

 米沢駅まで迎えに来ていただいたのは遠藤さんで宿の若い当主さんでした。道中この雪の中の生活のことをいろいろ紹介してもらいました。大雪のあとの町のあちらこちらで、高い屋根の上から積もった雪降ろしをする姿を私が目の当たりにしたのは初めてのことでした。

 宿の母屋の茅葺屋根は、雪降ろしをしたそうですが再び雪が被さっておりました。建てて190年を超すそうです。かつて三軒の宿屋が茅葺屋根を連ねていたのは壮観だったそうですが、2000年3月の大火で残る二軒の茅葺が焼失したそうです。旅館としての茅葺は現在の消防法では認められず復元できないそうです。それで今回の宿泊先がここで唯一残った茅葺屋根とのことでした。宿は昔ながらの日本宿のスタイルでスリッパはありません。宿の廊下は職人さんが作った藤ゴザが敷いてありますが、階段はぴかぴかに磨かれた木でとても冷たいのですが、すごく清潔で美しく保たれています。

 この大きな旅館にどうも私たち以外にはもう一組ぐらいしかお客さんがいないらしくて、いつ行ってもお風呂場はマイ温泉状態でした。

 部屋に案内してくれた番頭さんからうちのお湯は熱いですからと聞いていましたが、熱すぎることはありませんでした。お風呂場は吹き抜けになっていて、屋根こそありますが外気が流れるみたいに露天風呂同様で、上半身を長くは出していられませんでした。その外気は当日マイナス9℃ぐらいだったはずで、お湯も熱すぎなかったものと考えられます。熱い源泉から滝のように落ちてくる「打たせ湯」が3本あって、湯船に次から次と流れ込みます。湯船は御影石とのことで長い年月の間に黒くなったらしく、電燈ひとつの下では境目がよくわかりません。湯船の湯は川のように流れているようで、こぼれ落ちるお湯は風呂場の外の渡り廊下の下をこれまた勢いよく流れます。まるで惜しげもなく思いっきり温泉の湯を捨てているようです。故郷の栗野岳温泉「南州館」のことを想いだしました。

 風呂場には源泉の上がり湯と湯船があるだけで、鏡と蛇口があるような洗い場はありません。湯船から湯を汲むだけの昔ながらの温泉のスタイルです。今どきの若い人は使い方を知らないのではないかな。日頃、痛みを感じている肩に湯を打ちます。じんじんときて、なにか効いているように感じます。

 お風呂の外の渡り廊下に、なんでこんなところに綿ぼこりがと連れ合いが思いましたのは、よく見たら湯気が一瞬にして結晶したものではないかと考えられました。窓の外にはつららが長く下がり、部屋の障子一枚で隔てた縁側に風呂上りのタオルを干していましたら少し経つと凍っておりました。

 当主の若いご夫婦の遠藤さんは十九代目、おしゃべりを始めた二歳の坊やは二十代目ということになります。現代風の快適さではなく、それぞれの木材を使い土壁と障子を用いた建物そして本物の温泉をありのままに提供する。そういう代々引き継いできたことを現代風に「コンセプト」にまとめて案内してありました。少し手を加えながら維持していく後世に残していくことが使命だとも書いてありました。そして、そんな山間にもブロードバンドがケーブルで四月からつながるそうです。工事をしておりました。

 翌朝、山の宿から乗った帰りの路線バスは終点の駅に着くまでとうとう私たち二人だけでした。米沢から福島に出てきましたら、水墨画のような雪景色から、まるでミレーの描く油絵のように風景が一変しました。わずかの乗車時間で景色がまったく違っていて不思議に感じました。

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