酒井陽子さんという方がフェイスブックに投稿された一文です。ご本人の許可を得ましたので転載させていただきます。 5月の初めに投稿されたのですが、今でも私は何度か読み返しています。
『夫は釣りが大好き。この連休も館山に出かけた。釣ること自体を楽しむ人もいるが、夫は釣った魚を食べることが目的だ。夫の帰宅が近づくと私はなぜか気が重くなる。「今日は大漁でありませんように・・・」今回は立派なカサゴが3匹。ボラの子供という5.6センチほどの小魚が6・70匹。このちっちゃいくせにうろこもしっかり付いてるのが手ごわい。1匹1匹うろこをこそげ取り、内臓を出して、頭を取る。何も考えず、ひたすら取る。家中が魚くさくなり、台所中にうろこが飛び散る。カサゴは夫が格闘しつつ、何とか3枚におろした。
よーく砥いだ包丁で、うす作りにする。
何時間たっただろうか・・
カサゴの刺身のほかに、煮付け、小魚は無事、南蛮漬けとなり、終了。
夫と2人、くたびれ果てて、もう食欲もない
以前、夫は「後はよろしく」と一人寝ていたが、そうはさせじと、ストライキ。
一緒にすることになった。夫は自分が釣った魚は尾っぽまで美味しいらしく、幸せそうだ。私は次の日になると、ぱりぱりになって家のあちこちで発見されるうろこを拾って歩くことを想像しつつ、「まっ、いいか~」と思えるようになった。』
どなたかがコメントされていますように、詩を読んでいるようだし、情景がまるで手に取るように浮かんできます。
最初から微笑ましくって一気に読めたのですが、そのうちなんども読み返すようになりました。そして、これってすごい文章だなと思えてきました。お手本にしたいような。
簡潔且つテンポがあって心地よく、読み手の私たちに想像をふくらませ、メリハリを与え、そして、「もう食欲もない」とか「『まっ、いいか~』と思えるようになった」という“結”でなんとも言い難い味わいと余韻を楽しませてくれます。
きっと酒井さんの頭のなかで醸成されていた「言いたいこと」が素直に、そして潜在的な表現力をもって生み出されたように思えます。
2月のときの投稿文(お味噌づくりのボランティア)を拝見したときも、すっと心に入ってきました。そのときも素直な人柄と不思議な文章力を感じたのですが、この一文はそれに加えて個性に満ち、473文字のこころ踊るエッセイだと感服しました。
また、みなさんのコメントがいいですね。やりとりのなかの「逆鱗」も絶妙です。
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